はじめに
研究と実務は「別物」と見なされがちです。
研究は大学や研究所で理論を積み上げる営み、実務はビジネスの現場で結果を出す営み。前者は長期的で抽象的、後者は即効的で具体的。そうした区分は、多くの人にとって自然な認識かもしれません。
しかし私たちオルトデザインは、両者を切り離しては考えていません。むしろ、研究と実務は同じ作法に基づく営みであり、互いに往還しながら進化するものだと捉えています。
研究では問いを立て、仮説をつくり、実験で検証し、結果を考察して次の一手につなげます。
実務でも企画を立て、小さく試し、数字や反応を確かめ、改善を重ねて次の施策へと進みます。
呼び方こそ違えど、そのプロセスは驚くほど似ています。
そして両者を貫く根底の問いは、いつもひとつです。
「人が一歩を踏み出す接点をどう設計するか」。
このブログでは、その作法を具体例を交えて紹介します。
例1:WEB起点の入居者導線設計
現在進めている施設プロジェクトでは、完成前から入居者候補との接点を設計しています。
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仮説:「未来の利用イメージと手続き導線を示せば、内覧予約や問い合わせが増える」
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試行:プレローンチ用のLPを複数案つくり、CTA文言やフォームの設計を変えて反応をテスト
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計測:GA4でCVRや離脱率を追跡、検索やSNS流入ごとに傾向を分析
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改善:反応の高いコピーや導線を集約し、問い合わせ後の自動フォローを導入
研究でいう「実験と検証」を実務でそのまま実装している例です。数字で確かめながら、次の施策へとつなげています。
例2:貧困コミュニティの子どもを対象にしたワークショップ
密集市街地の貧困コミュニティにおいて、子どもたちを対象にアートやデザインのワークショップを行っています。入口に時間割や活動内容を掲示し、地域の大人が説明役を担う。活動の中心は、小冊子や地図などを子どもたちと共につくる「共作」です。
出来上がったものを持ち帰る体験は、次の参加や再会を自然に生み出します。
ここで重視しているのは作品の完成度ではなく、参加のプロセスが新たな接点をつくることです。研究として見れば「再訪率や参加率の測定」にあたり、実務的には「次の参加を生む仕組みづくり」と言えます。活動と社会実験は地続きにあるのです。
例3:ウェブやマーケティングの現場
例1に近しいものですが、施設経営に関わらないウェブサイトの世界でも同じです。問い合わせボタンの色を変える、キャッチコピーを「名詞止め」から「動詞はじめ」に変える。それだけで成果が数%変わることは珍しくありません。数字は小さく見えても、事業全体に大きく影響します。これは実験条件を変えて結果を比較する研究の営みと構造的には同じです。
例4:展示会の現場
展示会は「人が立ち止まるかどうか」を数秒で決める、まさに接点設計の実験場です。
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仮説:「正面に体験型コンテンツを置けば、滞在時間と会話の発生率が伸びる」
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試行:デモ体験や来場者参加型のアンケート・スタンプカードを導入
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計測:立ち止まり率、名刺交換数、平均会話時間などを記録
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改善:次回は反応の高かった導線や体験要素を強化し、滞在から商談へつなげる
展示会は研究でいう「条件を変えて検証する実験」と同じ構造を持っています。立ち止まる率や会話の長さという指標を見ながら、次の一歩を設計する場でもあるのです。
共通する作法
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仮説を立てる
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小さく試す
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数字や反応を確かめる
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次の一手を決める
研究では「実験」と呼ばれ、実務では「改善」と呼ばれるだけ。小さなループを回し続けることが、成果や価値を積み重ねていきます。
おわりに
研究と実務は、別々の世界ではありません。
ウェブでも、施設でも、コミュニティでも、展示会でも、共通する問いはただひとつ。
冒頭にも書いた「人と人が出会い、一歩を踏み出す瞬間をどう設計するか」。
未来を示す設計と、小さな共作や試行の積み重ね。
その両方を重ねることで、遠くまで届く接点が生まれると私たちは考えています。
これがオルトデザインのアプローチであり、今後も深めていきたい方向性です。
次回は、実際のプロジェクト事例をさらに掘り下げてご紹介したいと思います。